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西九州新幹線開業で注目の西九州エリア~新幹線開業から半年。時短効果で訪れやすくなった佐賀・長崎のおすすめスポットを紹介~

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西九州新幹線「かもめ」

2022年9月23日に開業した西九州新幹線「かもめ」。「九州らしいオンリーワンの車両」をコンセプトにJR九州のコーポレートカラーの赤を配色、かもめのシンボルマーク、ロゴなどが印象的な新幹線だ。目新しい新幹線がホームに入ってくる光景というのは鉄道好きならずともワクワクする瞬間だ。西九州新幹線の開業により、博多駅〜長崎駅間は最速所要時間1時間20分。1日あたり44本が運行されている。約30分の時短効果があり、往復では約1時間短縮される。また従来の在来線特急列車では線路が有明海沿いにくねくねとしていたが新幹線では真っすぐの線路になり、新幹線の乗り心地と相まって、時短だけでなく快適に移動できるようになった。とくに新大阪発では大きな時短効果と快適性の向上が見られる。新幹線開業に合わせ大型MICE施設やホテルなどの整備が進み、MICE都市としても注目が集まる。今回の取材でも関西地区からの観光客が増加しているとの声が聞かれた。本記事では新幹線効果で観光キャンペーンも実施され、宿泊者数も順調に伸びている佐賀県、長崎県のおすすめスポットを紹介する。

西九州新幹線「かもめ」は武雄温泉駅での対面乗り換え方式

今回の新幹線開業は全長約66キロで開業。区間は武雄温泉~長崎間。博多~武雄温泉間は在来線特急「リレーかもめ」で移動し、武雄温泉駅での乗り換えが必要となる。乗り換えといっても同じホームで新幹線に乗り換える「対面乗換方式」。特急を降りれば目の前に新幹線が到着するので、迷うことなくスムーズに乗り換えることができる。この乗り換え方式は九州新幹線の部分開業でも採用された方式だ。

同じホームで新幹線と特急が乗り換えられる「対面乗換方式」
大きな「かもめ」のロゴが目を引く(写真左)
西九州新幹線「かもめ」座席。和洋折衷、クラッシックとモダンが組み合わされた空間(写真右)
在来特急「リレーかもめ」(787系)。普通車にボックス席も

新駅誕生で時短効果が大きい佐賀の名湯・嬉野温泉で名物の「温泉湯どうふ」を

日本三大美肌の湯をPRする嬉野温泉。嬉野温泉のぬめりのある温泉は、ナトリウムを多く含む重曹泉。他にもお茶、陶磁器が有名で、西九州新幹線の開業ではJRの最寄り駅として新幹線駅の嬉野温泉駅が誕生。これまで車やバスを利用して訪れていた温泉地が新幹線駅の嬉野温泉駅から車で約5分とJRで気軽に訪れることができる温泉へと変わった。嬉野温泉には温泉水を使った温泉湯どうふが名物だ。「宗庵 よこ長」は温泉湯どうふ発祥の店。温泉湯どうふに最適な味、風味、食感にこだわり、豆腐から自家製造している。佐賀県産大豆フクユタカを原料に使用した豆腐はそのまま食べても甘みを感じるほど濃厚。温泉水で豆腐を煮込むことで煮汁は乳白色になり、豆腐はとろけるような食感になる。

湯豆腐は出汁にしっかり味がついているので、薬味をのせてそのまま。たれは海老などにつけて食べる
外観(写真左)店長の小野原健さん(写真右)

嬉野ティーツーリズム「Tea Experience」茶空間体験。外国人富裕層にも人気

西日本有数のお茶の生産地として知られる嬉野。なだらかな山間で霧深く、昼夜の温度差や日照量などの条件が茶の栽培に適した、日本を代表する茶処だ。そんな嬉野で生まれたのが、「至福の一杯」を求めて旅をする「ティーツーリズム」。
茶畑に特別に設置された「茶空間」で、コンシェルジュの淹れたお茶と菓子を味わうティーセレモニーを体験した。

茶畑を背景に特別な体験を

ティーセレモニーに使用する茶器はどれも肥前吉田焼。すべてこの為に特注したもので「お茶の緑が映えるように」「フランス料理のように美しく盛れるように」など様々なこだわりで制作されている。コンシェルジュはまず茶葉を測り、それから適温の60度以下になるまでお湯を冷ます。熱いとえぐみが出てしまうため、適温のお湯でしっかりと旨味を出す。一杯目に出されたのは煎茶「おくゆたか」。香りと旨味が強い、出汁を思わせるような一杯だ。二杯目は青ほうじ茶で、今度は湯冷ましをあまりせず高温に近い温度で淹れる。ほうじ茶特有の香ばしさと緑茶の風味が楽しめる。一緒に出された酒粕ショコラパウンドケーキとも相性が良い。三杯目は冷たいレモングラス緑茶。レモングラス、レモンピールが入った爽やかな味わい。塩味の効いた生地にあんこがサンドされている「アンデサンド」(地元のパティスリー「うれし庵」のオリジナル菓子)とのペアリング。

茶畑に作られた茶空間「天茶台」。標高約200mに位置し、眼下に嬉野温泉街が広がる(写真左)
レモングラス緑茶とアンデサンド(写真右)

市内には今回行った「天茶台」を含め全部で4カ所の茶空間があり、予約制でティーセレモニーが楽しめる。MICEを開催する際にベニューとしての価値は高く、海外からのゲストにも喜ばれる体験だろう。すでにコロナ禍以前には多くの外国人観光客に利用されている高級タイプの体験型プログラムとなっている。
ティーツーリズムとしてはティーセレモニーのほかにも、レンタサイクルやタクシーを活用して茶畑や観光スポットを巡る「茶輪(ちゃりん)」、旅館でチェックイン後ウェルカムドリンクや夕食時の料理とお茶のペアリングなどでもてなす「茶泊(ちゃはく)」などのメニューがある。
ティーツーリズムは地元の茶農家や旅館経営者ら有志でスタートした取り組み。
コンシェルジュによる茶空間でのティーセレモニーの料金は1人1万円(税別)。お茶、お茶菓子付き。1人利用の場合は2万円(税別)。(コンシェルジュは、2カ月間茶や嬉野市の知識を学ぶ研修を経て採用された人)。
コンシェルジュではなく茶農家によるおもてなしの場合は1人1万5千円(税別)。お茶、お菓子付き。1人利用の場合は3万円(税別)。

Tea Tourism -嬉野茶- ティーツーリズム

カフェや雑貨店などを備える長崎・東彼杵の交流拠点「Sorrisoriso」

1953年に建設された農協米倉庫だった建物をリノベーションし、地域交流と情報発信を行う交流拠点に。カフェ「Tsubamecoffee」ではアメリカ―ノやエスプレッソ、カフェラテ、フラッペのほか緑茶や抹茶を使用したドリンクを販売。「くじらの髭」では地産の「そのぎほうじ茶」の量り売りや地元の食品、食器などの雑貨を販売。イベントなどを開催するフリースペースも有する。レンタカー利用などで2県を移動し観光する場合におすすめの立ち寄りスポット。

カフェ「Tsubamecoffee」
イベントなどが開催されるフリースペース(写真左下)「くじらの髭」(写真右)

長崎・島原半島の小浜温泉と雲仙温泉

小浜温泉は713年の肥前風土記にも記されている古湯で、古くより湯治場として親しまれてきた。町には30カ所の源泉があり、温度100度以上の湯が一日に1万5千トンも湧き出している。泉質はナトリウム – 塩化物泉。源泉温度105℃で放熱量日本一を誇る。小浜温泉100%の足湯「ほっとふっと105」は源泉温度105度にちなみ全長105mと日本一の長さ。腰掛け足湯のほか、足湯の底に小石が埋め込まれ足裏のツボを刺激する「ウォーキング足湯」や愛犬と一緒に足湯が楽しめる「ペット足湯」スペースもある。また近くには小浜歴史資料館もあり、小浜町の歴史を知ることができる。小浜歴史資料館には築160年の本多湯太夫邸跡を保存している「湯太夫展示館」と小浜町の歴史や交通、温泉などを知る「歴史資料展示館」がある。島原半島ユネスコジオパークの認定も受けており、地質学的な自然を楽しめるエリアともなっている。小浜温泉バイナリー発電所もあり、地熱を利用した発電を行っており、視察旅行にも向いたエリアとなっている。

足湯「ほっとふっと105」の源泉(写真左)歴史資料館の源泉(写真右)
歴史資料館外観(写真左)歴史資料館の展示(写真右)

小浜温泉の老舗・伊勢屋旅館

小浜温泉にある伊勢屋旅館は創業350余年の老舗旅館。2019年にグランドオープンした。24室全ての客室がオーシャンビューかつ自家源泉掛け流しの温泉も付いておりプライベートな空間でゆったりと温泉を楽しむことができる。客室以外にも、大浴場のほか貸切対応の家族風呂3ケ所も備える。小さな子供がいる3世代旅行はもちろん、大浴場を利用しにくい外国人らにも好評だという。

伊勢屋旅館玄関(写真左)デンマークデザインのカイクリステンセン製の家具が配置されたロビー(写真右)
スタンダードルーム(写真左)客室風呂は全室オーシャンビューの半露天(写真右)

料理は新鮮な魚と旬の野菜を使用した創作料理。この日は「春の野菜畑ものがたり」。全8品のコースで、3種類の前菜、対馬穴子の茶巾寿司、地獲れ魚のお造り、餡かけ揚げ麺、春キャベツのポトフ、長崎牛の柳川鍋、さくら御飯と浅利味噌汁、自家製スウィーツ。コース以外にも別注料理として、鯨刺身盛り、あわび刺し、伊勢海老お造り、クリーム焼きなども揃える。朝食はパン、ごはんから選択可能で長崎角煮の名店「こじま」とコラボした角煮豚まんが付く。コスパに優れた旅館で露天風呂付客室を気軽に利用できる料金体系となっている。

お造りは橘湾の桜鯛と長崎海のヒラマサ(写真左)長崎牛の柳川鍋(写真右)
長崎・壱岐島の地ビールのIPA(写真左)朝食(写真右)

長崎・雲仙温泉の雲仙地獄

島原半島では、海の小浜温泉、山の雲仙温泉と称される。雲仙温泉へは小浜温泉から車で約30分で移動できる。異国情緒あふれる長崎県の高原リゾート地として整備された。戦前には上海からの避暑地として外国人でにぎわったエリアでもある。泉質はメタケイ酸を多く含む硫黄泉。人気や知名度も高い旅館やホテルが数多くあり、宿泊や日帰り温泉も利用できる。雲仙温泉を代表する名所が雲仙地獄。温泉の噴気に包まれた一帯は硫黄の香りが立ち込め、まさに地獄を思わせる光景。地獄内は遊歩道が整備されており、約60分ほどの地獄めぐりの途中には、新しく整備されたスポットがある。足を置くと地熱や噴気を体感できる休憩所「雲仙地獄 足蒸し(あしむし)」や地獄の蒸気を使って蒸しあげている名物温泉たまごを販売している「雲仙地獄工房」などがある。

温泉の噴気があがる雲仙地獄の風景

雲仙ビードロ美術館で「サンドブラスト」体験

長崎は日本グラス発祥の地。雲仙ビードロ美術館ではマスキングテープに好きな模様や絵、文字を描いて切り抜き、砂を吹きかけて模様を作る「サンドブラスト」体験ができる。
まずはデザインを決める。自分の好きな絵や文字でも良いし、イラストサンプルの中から選んだり組み合わせて使用しても良い。転写シートを使いマスキングテープにイラストを描いたらグラスに貼り付け。グラスの上からイラスト部分を削り取る。細かい作業だがグラスに傷はつかないので神経質にならず黙々と進めることができる。砂の吹き付けはスタッフがしてくれるので、戻ってきたグラスを布で拭けば完成。
美術館では「ビードロ」と呼ばれてきた江戸期の吹きガラスや19世紀のボヘミアンガラスなどのアンティークガラスをコレクション。さらに柿右衛門・鍋島・古伊万里などの陶磁器、絵画などを季節に応じて展示している。

様々なイラストのサンプルがある(写真左)模様にしたい部分をカッターで削る作業(写真右)
砂の吹き付けはスタッフが(写真左)完成したグラス(写真右)

雲仙福田屋旅館の食事処「香ふく」

香ふくは「種どり野菜」と呼ばれる在来種・固定種の野菜や自社農園で育てる無農薬野菜、島原半島の山の幸海の幸などを天ぷらで提供。JR九州の豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」のツアーでも利用される食事処だ。市場になかなか出回らない、ここに来ないと食べることができないものが味わえる。

使用する食材について説明(写真左)低温で野菜を丸ごと40分~50分じっくり揚げる(写真右)
車海老を天ぷらに(写真左)穴子はごはんにのせて(写真右)

島原城

キリシタン史料が充実している島原城。長崎県と熊本県にまたがる「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は世界遺産に認定されており、キリシタンにまつわる展示は人気も高い。天守閣は1階がキリシタン展で島原の乱にまつわる史料を数多く展示されている。5階は天守閣、展望所となっており島原市内や眉山、海の向こうには熊本の山々が見渡せる。
キリシタン史料のほか、築城以来250年にわたる島原藩の歴史遺産や郷土が誇る芸術家、北村西望氏の作品展示、「平成3年雲仙普賢岳噴火災害」の資料などで島原を知ることができる。

1964年に復元された天守閣
展望所からは雲仙普賢岳も見える(写真左)コレジオ十字架(写真右)

西九州新幹線の開業効果はコロナ禍でもありまだまだ全国的に知られていないが、時短効果や開業に合わせて行われた受け地整備など魅力は大きく向上している。滞在時間を伸ばすことができるほか、今回の島原半島のように長崎県全体への観光や視察旅行が実施しやすくなった。新しい新幹線や新しいMICE施設、新ホテルのオープンなどMICE実施の好条件が揃ったと言える。(JAPAN MICE NAVI編集部)

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