
宇野港で親しまれるチヌ。宇野港周辺で採取したゴミや、不要品を集めてつくったチヌ(クロダイ)
瀬戸内海の12の島と2つの港を舞台に開催される国内最大規模の現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」。2010年にスタートし、三年に一度開催。今年で5回目を迎える。開催当初からのテーマは「海の復権」で、「瀬戸内海で暮らす人々の笑顔が見られるように、観光が『感幸』であり、この芸術祭が島の将来の展望に繋がってほしい」という想いが込められている。瀬戸内海の美しい景観や文化、歴史などを活かして展開される作品は現地を訪れることでしか感じることができない魅力があり、2010年の開催以来多くのファン、リピーターに愛されている。観光だけではなく瀬戸内国際芸術祭がきっかけで移住する若い人も増えているという。この記事では5月12日、13日で開催されたJR四国主催のプレスツアーで巡った岡山県の宇野港周辺や香川県の小豆島、高松港周辺の作品を紹介する。
瀬戸内国際芸術祭の会期に合わせてMICEを開催するのがベストであるが、会期以外でも多くの作品が常設されているので、通年でMICEを実施できる。インセンティブツアーやワーケーションの実施もおすすめだ。直島や豊島、犬島では株式会社ベネッセホールディングス、公益社団法人福武財団がアート活動「ベネッセアートサイト直島」を展開。直島には、美術館とホテルの機能を兼ね備えた「ベネッセハウス ミュージアム」やクロード・モネら3人の作家の作品が鑑賞できる「地中美術館」、「杉本博司ギャラリー 時の回廊」など沢山の見どころがある。豊島にはアーティストの内藤礼と建築家の西沢立衛による「豊島美術館」、クリスチャン・ボルタンスキーが集めた世界中の人々の心臓音を聴くことができる小さな美術館「心臓音のアーカイブ」、アーティスト横尾忠則と建築家永山祐子による「豊島横尾館」などがある。犬島には銅製錬所の遺構を保存、再生した美術館「犬島精錬所美術館」、アーティスティックディレクターに長谷川祐子、建築家に妹島和世を迎え、様々なアーティストの作品が見られる「犬島『家プロジェクト』」、犬島の風土や文化に根差した「犬島 くらしの植物園」などがある。

宇野港エリア
岡山県玉野市にある宇野港エリア。造船業を中心に銅などの製錬業、製塩業などを基幹産業として発展した「ものづくりのまち」だ。また農業、漁業も盛んで、紫芋や茄子といった野菜に加え、梨や蜜柑、海苔、穴子などが特産。1910年、宇野線(岡山-宇野)の開通と同時に宇野と高松(香川県)を結ぶ宇高連絡船が就航。東京から宇野を結ぶブルートレイン「瀬戸」の発着点にもなり、宇野港は市の中心として、また本州と四国を結ぶ海上交通の要衝として発展した。連絡船が廃止された現在も、瀬戸内海の島々(直島・豊島・小豆島)を結ぶ航路があり、島々への玄関口となっている。

JR宇野みなと線の4駅(常山駅、八浜駅、備前田井駅、宇野駅)が白と黒のラインで装飾されている。日常の風景をガラリと変える作品(写真はJR宇野駅)

放置自転車に鉄くずを溶接して作られたカラフルでアートな自転車。自転車はレンタル可能


天井からサラサラと流れ落ちてくる塩を10秒間コップで受け止め、量り売りで買う事ができる。製塩業を営んできた玉野市らしい作品

80年以上前からある小さな古い民家を丸ごと作品に。使われなくなった古い物たちを「ゴースト」として再生させる装置にした



病院として半世紀使用された後、約40年そのまま残されていた建物は時間が止まっているような空間だ。約20年前パリ郊外で撮影された破壊される建築物の映像と写真を展示したインスタレーション

冒頭で紹介した「宇野のチヌ」のそばにはコチヌも。中は滑り台になっている

海底の付着物や人の記憶が年月を経て増えていくように、作品にも鉄のパーツが付け足されていく。旧日本軍の軍艦のいかりとノルウェー船のスクリューを使用した作品
瀬戸内国際芸術祭の特製弁当を試食
宇野港は、瀬戸内国際芸術祭の会場のひとつであるとともに、高松や島会場(直島・豊島・小豆島)を結ぶ玄関口。今回は宇野港から小豆島へチャーター船で移動した。船の中ではUNO HOTEL内BLUNO特製「白桃を食べて育った桃鯛と瀬戸内パエリア弁当」を頂いた。このお弁当は「『瀬戸内国際芸術祭2022』 汐まち玉野食プロジェクト」として制作されたもの。玉野の塩をテーマにした特製弁当だ。来場者が島へ渡る前にお弁当を購入できるように、朝8時から宇野港案内所(JR宇野駅構内)にて販売している。価格は1,500円(税込)で数量限定。もう一種類、KEIRIN HOTEL 10内FORQ特製「桜海老と瀬戸内海苔の2色のしおさい弁当」がある。

小豆島
瀬戸内海では淡路島に次いで2番目に大きな島。土庄町、小豆島町の2つの町からなり、約26,000人が暮らしている。約110年前に日本で初めてオリーブ栽培に成功したことから「オリーブの島」としても知られ、他にも400年以上続く醤油、素麺の生産、そこから派生した佃煮やごま油など特産品は多岐にわたる。海岸線からは瀬戸内海の代名詞とも言える多島美を楽しむことができる一方、瀬戸内海最高峰を有するなど山間部は標高が高く、海と山とで趣の異なる美しい景観が望める。寒霞渓やエンジェルロードに代表されるような観光地として知られるほか、地域の伝統行事や風習が色濃く残る、自然と文化が調和した島。

作品のある土庄本町は海賊から島民の生活を守るため、また海風から建物や日常生活を守るために意図的に作られた複雑な路地が迷路のように入り組んだ「迷路のまち」。作品は家屋の外壁を室内に延長させ、建物内部にまるで洞窟のように延ばされた路を制作。歩いて体感することができる

「迷路のまち」の各所に「立入禁止」の看板やロープが設置されている。「立入禁止」を設置することで人は様々な想像を巡らせる


約2メートルの高さのオブジェを2体設置。「いっしょに」は、人が人を支えて助けている様子。「ともだち」は、小さな部屋のドアが人の横顔になっている

リサイクル販売店から買い集めたアルミ製品を使用し、百日紅の樹に。カンボジアで昔から生活のなかで使われていたアルミ製品の歴史が樹に刻まれる。マティスの絵「ダンス」のように作品が円形に配置されている



木造民家が架空の彫刻家のアトリエに。アトリエの主人は木の人形で、成熟した社会の実現の為に木の人形を制作している。人間の多様性を表現した彫刻インスタレーション

高さ9.5メートル、全長17メートルの巨人。この作品がある神浦地区で使用されていた石積みの石や厳島神社の神事で使われていた舟、瀬戸内海の各所で集めた流木などを組み合わせて作られている。巨人が腰を下ろし眺めているのは瀬戸内海の風景。巨人と同じように座って眺められるスポットも設置されている

貝殻ではなく民家を背負った巨大なヤドカリ。ヤドカリは木彫りの作品。家には海を渡ってきた生き物と人をモチーフにした彫刻が置かれている

海のすぐそばにある作品。ホルン型の集音器が波や船の音を拾い、建物の中で響かせている

漁業者の高齢化により使われなくなった舟を作品に。丸太や流木、漁具などで作った椅子やテーブルが設置されている

オリーブの葉を王冠の形に仕立てた黄金に輝く彫刻作品。葉の一枚一枚に地元の子供たちの海へのメッセージが刻まれている

島の空間に対して芽生えた感情を言葉にし、その言葉を想像の水のなかに落とすことで、その空間とつながる水の動きをイメージした金属彫刻

世界的なファッションデザイナーでもあるコシノジュンコ。デザインしたドレスを3Dスキャンで造形化した。人間が作る「合理」と自然が作る「波紋」。対極の美を表現した
高松港エリア
高松港のある高松市は、四国の北東部、香川県のほぼ中心に位置する人口約420,000人の都市。高松城は、海に面し、堀に海水が引き込まれている全国的にも珍しい水城(みずしろ)。高松は江戸時代を通じて城下町として発展。明治時代以降、高松港は数度にわたる大規模な港湾の改修と鉄道の敷設を経て「四国の玄関」となった。次々と船が発着する高松港は、入港船舶隻数が全国でも上位の屈指の旅客港で、島々へと渡る母港、城下町から発展した現代の市街地と瀬戸内海の結節点として、重要な役割を果たしている。

瀬戸内海の海底から泳いできたような、紙で作られた魚がふわりと浮かぶ。高松港の窓口である総合インフォメーションセンターで旅人を出迎え、見送っている

会期外でも瀬戸内国際芸術祭2022公式オンラインショップで購入可能だ。
https://setouchi2022.official.ec/
会期など
2022年の春期は4月14日~5月18日まで。夏期は8月5日~9月4日まで。秋期は9月29日~11月6日まで開催される。感染症拡大防止のため今年から各所にある検温スポットで体温測定などを行い、当日限り有効のリストバンドをもらい着用する必要がある。瀬戸内国際芸術祭のホームページからはアート作品の見どころやおすすめスポットなどを教えてくれるガイド付きツアーに申し込むことができる。(JAPAN MICE NAVI 編集部)
瀬戸内国際芸術祭ホームページ
https://setouchi-artfest.jp/