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比叡山延暦寺ワーケーション~滋賀県が推進する「大都市に隣接」「豊かな自然景観や文化財」「適度な疎」という優位性を活かした「滋賀らしい」ワーケーションをリポート~

JPEN
大阪から約1時間で到着する比叡山。山の上から見える琵琶湖が美しい。

滋賀県はJR西日本、日本旅行と連携し10月21日22日、滋賀県比叡山延暦寺でのワーケーションのモニターツアーを開催。マスコミ関係者や一般の参加者などが参加した。今回、我々も参加した。
滋賀県は「大都市に隣接」「豊かな自然景観や文化財」「適度な疎」という優位性を活かした「滋賀らしい」のワーケーションを推進。県土の約6分の一を占める日本最大の湖・琵琶湖を抱え、周囲には緑豊かな山々や田園風景が広がる。また古くから文化、経済の先進地として栄え歴史ある寺社や戦国時代をはじめとする英傑たちの足跡、歴史情緒残る町並みなどが残る。これらの自然や歴史を活かした「体験」や次世代に繋げるための維持、保全活動などの「地域課題解決への活動」等を組み込んだ「滋賀ならでは」のワーケーションを提案している。
今年は伝教大師最澄1200年の大遠忌を迎えた年。JR西日本の観光キャンペーン「ちょこっと関西歴史たび」では「最澄と比叡山」をテーマに企画していることから今回のモニターツアーは滋賀県とJR西日本が連携して実施された。JR西日本もワーケーションを推進しており、今年度にグランドプリンス広島、鷲羽山下電ホテル、長崎県の壱岐などで実施している。

ワーケーションがスタート

比叡山延暦寺でのワーケーション1日目。参加者らは午前9時40分、JR大津京駅に集合しバスで延暦寺会館へ向かった。大阪から大津京まではJRで約50分とアクセス良好だ。大都市に隣接しているという点は急なアクシデント等で会社へ行かなければならない事態を想定すると有利だ。それでいて客室から見える琵琶湖の景色は素晴らしく、しっかりと旅行へ来た気分を味わえる。
参加者らは宿泊する延暦寺会館に到着後、喫茶や客室など各々自由な場所でリモートワークをスタートさせた。ワーケーションではご存じの通り、仕事の合間の観光やアクティビティも重要な要素。比叡山延暦寺は伝教大師最澄が延暦7年(788年)に創建し「日本仏教の母山」と呼ばれる天台宗総本山の寺院。1994年に、ユネスコ世界文化遺産に登録された。比叡山は大きく3つの地域(東塔、西塔、横川)に分けられ、総称して比叡山延暦寺という。東塔(とうどう)地域は比叡山延暦寺の中心で、総本堂の根本中堂をはじめ大講堂、法華総持院東塔など重要な堂塔が集まる。西塔(さいとう)地域は壮大なたたずまいの東塔に対し、美しい杉木立の間から小鳥のさえずりが聞こえる静寂境。釈迦堂を中心に椿堂、にない堂などがある。横川(よかわ)地域は一番北のエリア。慈覚大師円仁によって開かれ源信、親鸞、日蓮、道元などのちに名僧と言われた人たちが修行に入った地だ。

総本堂の根本中堂 現在は改修工事中
大講堂
宿泊とワーケションの拠点となる延暦寺会館

トヨタの超小型EV「C+Pod(シーポッド)」のカーシェアリング

比叡山の観光ではトヨタの超小型EV「C+Pod(シーポッド)」のカーシェアリングが便利だ。点在する寺院のエリアや観光スポットには自家用車で来ていない場合、バスで周遊することになる。「C+Pod(シーポッド)」のカーシェアリングであればバスの時刻表を気にすることなく自由度が高い観光プランを立てることができる。トヨタのカーシェアリング「TOYOTA SHARE」への事前登録が必要となっている。

小回りの利く、超小型EV「C+Pod(シーポッド)」

延暦寺書院での日本画ワークショップ

今回のワーケーションでは日本画家・定家亜由子さんを講師に迎え、通常非公開の延暦寺大書院を会場に日本画ワークショップが開催された。国宝「根本中堂」の神獣のモチーフに日本画絵具を使用し色塗りを体験した。筆者は日本絵具に触れるのは初めて。指で絵具を溶いていく作業などは五感を使う新鮮で貴重な体験だ。日本画の絵具は西洋絵画のように「塗る」という感覚より水の滲みを活かし滲みに合わせて色をつけていくというやり方だそう。絵具が違うだけでなく、塗り方にも違いがあることを初めて知る。自然にこちらが合わせる手法は日本的だと感じた。2時間のワークショップだったがあっという間に終了。普段使わない脳が刺激されるようでリフレッシュできた。

通常非公開の書院
日本画のいろはを学ぶ
筆者作の日本画塗り絵

延暦寺会館の喫茶店「れいほう」の人気メニュー「守り本尊梵字ラテ」

旅の様子をSNSにアップする人は多い。喫茶店「れいほう」の人気メニュー「守り本尊梵字ラテ」はSNSにぴったりの商品だ。生まれた干支によって守ってくれる仏様が「お守り本尊」で、干支別に「守護梵字」があり、梵字そのものが仏様を表す神聖な文字だそう。梵字のラテアートが楽しめる。

梵字ラテ
喫茶れいほうからの景色も素晴らしくワーケーションにうってつけだ

延暦寺会館で精進料理の夕食

精進料理はもともと仏教の修行僧が食していたもの。素材を無駄なく調理することにより生命の尊さを感じる料理だ。延暦寺会館の精進料理は煮物の味付けが良く、筆者が想像していたより美味しく食べられた。十分なボリュームもあった。食事会場からも綺麗な琵琶湖の夕景、夜景が見られた。

精進料理の夕食

京都で120年以上続く「佐々木酒造」の4代目社長・佐々木晃さんによるミニ講義

佐々木酒造は人気俳優の佐々木蔵之介さんの実家としても有名。佐々木晃社長の話がとても上手で面白く、楽しい時間が過ごせた。日本酒の基本的な作り方や蘊蓄などを教わり勉強になる。日本酒はワインに比べてバランスの良い飲み物で、和食もまたバランスの良い料理なので基本的に和食と日本酒はどんな組み合わせでも合う、といった話が印象に残った。また日本酒飲み比べ体験では、それぞれの味の違いなど解説を聴きながら飲むことで一層味わい深いものになった。

佐々木晃社長
日本酒飲み比べ
佐々木酒造の銘酒

延暦寺の総本堂である「根本中堂」で毎朝行われている「お勤め」に参加

翌朝は朝のお勤めに参加。根本中堂は工事中だったが、それも今だけの貴重な姿だ。住職のお話もかしこまったものでなく自然な気持ちで聴くことができた。
早朝の延暦寺の景色は清々しく、宿泊者でなければ味わえない空気を感じられた。
お勤めの後は延暦寺会館で朝食。納豆やお漬物、ひじきや大根、こんにゃくの煮物、お味噌汁、ヨーグルトなどが提供された。

早朝の比叡山延暦寺
朝食

寺社観光だけでない、花と絵画の庭園美術館「ガーデンミュージアム比叡」

和の観光や体験ばかりではという人には、比叡山山頂にあるガーデンミュージアム比叡の利用もおすすめ。季節の花々やハーブが咲く園内にはモネ、ルノワール、ゴッホなどの絵画を陶板で再現して屋外展示している。比叡山延暦寺と聞けば寺社観光ばかりをイメージする人も多いと思うが、ガーデンミュージアム比叡はガラッと趣が異なる。小さな子供も喜びそうな施設なので、家族連れのワーケーションにも適している。
園内のレストラン「カフェ・ド・パリ」はハーブティーなどのソフトドリンクやシチュー、ハンバーグ、カレーなどのメニューが揃う。延暦寺会館での食事は精進料理なので、昼食にこちらで洋食を食べればメリハリがつけられる。テラス席は琵琶湖を一望しながら食事が楽しめるのも解放感がありリフレッシュになった。ちょうど漫画家あしべゆうほさんの原画展を開催しており、カフェでも原画展特別企画オリジナルブレンドのハーブティーを販売していた。青い綺麗なハーブティーでSNS映えする商品だ。

比叡山延暦寺のワーケーションは、ここにしかない滋賀らしい体験がたくさん出来た。旅行やワーション選びも総予算で検討することも重要だ。今回のケースではワークショップが無料でかつ特別なものが用意されたことは大きい。交通費、食費、宿泊費、そしてワークショップや観光施設への入場料の総額といったところになるか。
コロナ禍で大きなダメージを受けた観光業にとってワーケーションは新規市場であり、閑散期対策、交流人口の拡大などに繋がる明るい希望だ。多くの自治体がワーケーションに取り組んでいる。Wi-Fiや集中できる個室など仕事ができる環境の整備は当然として、目的地に選ばれるためにはやはり地域性は外せない。オフの時間に楽しめる魅力的な観光素材、仕事に繋がるまたはリフレッシュになるワークショップ・講座などを用意することでワーケーションをコロナ禍の一過性のブームで終わらせるのではなく定着させていきたい。
日本でのワーケーションは始まったばかりで定着させるには様々な課題があるが、参加者側の問題としては公私の切り替え難しいということがある。従来の日本人的な働き方が染み着いていると就業時間中に観光に行くという感覚がなかなか馴染めないのだ。
筆者は今回参加して、まだワーケーションに慣れない参加者にとっては食がキーワードになるのではないかと思った。観光やアクティビティに参加するのに罪悪感を持つ参加者も、食事の時間は必ずとるはずだ。地産地消の美味しい料理を食べるだけでその土地に来た甲斐があるし、文化にも触れられる。堅苦しいものではなく、楽しく食事をとりながら学べる講座やリフレッシュできるアクティビティがあれば、ワーケーション初心者も取り入れやすいだろう。せっかくワーケーションに来たのに部屋に引きこもり仕事だけをして、何も触れず帰るのでは意味がない。生真面目で働きすぎる日本人にはワーケーションに慣れ、楽しんでもらう工夫が必要ではないだろうか。(JAPAN MICE NAVI 編集部)

日本のワーケーションの基本がわかるコラム記事はこちら
https://mice-navi.jp/members-only/kabuk-style

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