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JR西日本グループと定額住み放題サービス「HafH」を提供するKabuK Styleが業務提携。「HafH」会員限定で、新幹線・特急がお得に利用できる実証実験を実施!アフターコロナで注目される新しい働き方、ライフスタイル。

JPEN
海を眺めながら旅先で仕事を(ゲストリビングMu南紀白浜)

休暇(vacation)を兼ねて滞在先で仕事(work)する「ワーケーション」が注目されている。以前から企業のテレワーク導入などにより、働き方の多様性が実現しつつあったところに新型コロナウイルスの感染拡大でさらにテレワークが普及。「ワーケーション」や「多拠点居住」といった働く場所や住む場所を固定しない新しいライフスタイルが注目されている。リゾート地でリモート勤務をすることで、まとまった休みが取れないビジネスパーソンも旅行することができる。
JR西日本とJR西日本のコーポレートベンチャーキャピタル機能を有する株式会社JR西日本イノベーションズはサブスクリプション型コリビングサービスを展開する株式会社KabuK Styleと業務提携した。両社は、9月1日から11月30日まで、地方と都市部間の割引切符を提供する「JR西日本×住まいのサブスク」の実証実験を実施。官民や関連する事業者が協力した。このコラムではJR西日本イノベーションズ、KabuK Styleと同社が提供する定額住み放題サービス「HafH」の提携宿泊施設「ゲストリビングMu南紀白浜」、ワーケーションに取り組む行政として和歌山県に、これまでの取り組み、実証実験、最新のワーケーション事情について話を聞いた。

実証実験「JR西日本×住まいのサブスク」

今回の実証実験では、JR西日本がHafH会員向けに、新幹線、特急券切符が最大約半額になる割引切符を提供。HafH利用者のうち抽選の90人が対象(好評につき150人に枠を増員)で、割引切符の対象区間は大阪と広島間、福岡と広島間、大阪と和歌山・白浜間。従来の通勤やビジネス、観光ではない、新しい鉄道需要を創出し、地域の活性化や新しいまちづくりなどを目指す。
KabuK Styleは、国内外265都市430拠点の宿泊施設に定額で住み放題となるサービス「HafH(ハフ:Home away from Home)」を2019年4月より提供している。HafHとは、毎月定額(光熱費・備品・インターネット費用・敷金・礼金・保証金・家具購入費等の諸費用及び初期費用がオールインワン)で、全世界に住むことのできるプラットフォームを目指す、新しいサブスクリプション型コリビングサービス。1か月8万2千円で全世界のHafH提携施設に住み放題。旅をしながら働きたい、暮らしたいという夢を叶えてくれる。「おためしハフ(2日間3千円)」、「ちょっとハフ(5日間1万6千円)」という気軽に試せるプランもある。サービス開始時は海外展開や国内でもゲストハウスを中心としたサービスのイメージが強かったが、コロナ禍で国内のリゾートホテルなども加わり始めた。
今回の実証実験でKabuK Styleは移動コストの最適化を行うためのデータ収集を図り、将来的なMaas開発を促進し、また不動産業界や旅行業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX化)に寄与していくとしている。

浜風を感じるエントランスで時には頭を空っぽに(ゲストリビングMu南紀白浜)

JR西日本イノベーションズの取り組みについて~これからの鉄道需要の創造する

JR西日本グループは「西日本エリアを中心とした地域の活性化」と「なんども訪れたくなるまち、沿線づくり」を共に実現できるベンチャー企業との提携を進めている。今回のKabuK Styleとの提携により、JR西日本グループの鉄道ネットワークとKabuK Style のHafH のプラットフォームを相互に機能させ、誰もが「旅も、仕事も、お気に入りの場所で」できるような、新しいライフスタイルを提案し、西日本各エリアの地域活性化、そして誰もが「なんども訪れたくなるまち、沿線づくり」を推進していく。
同社は、1年ほど前から観光だけではなく、繰り返しその土地を訪れる「関係人口」に注目し、その増加を目指してきた。新型コロナ感染拡大もあり、従来の「待っていても人が移動する」から脱却し、交通事業者として「新しい移動づくり」に取り組んでいる。将来的にサブスク的なサービス事業を展開できるのか、データをとりながら実証実験を進めている。
働き方が変わり、定期券が不要になる利用者も増えることが予測されるが、「『ずっと家にいるのは苦痛』と人は思うはず」と同社の担当者。ではどういったサービスが喜ばれるのか。今回の実証実験ではJR西日本営業本部も参加し、割引率の高い切符を販売するという特徴的な取り組みとなった。

和歌山県~和歌山県はワーケーション先進県

和歌山県は、2017年度からワーケーションに取り組んでおり、白浜については首都圏をターゲットに南紀白浜空港を利用したプログラムを企業に対して提案してきた。今年の3月までの3年間で104社、910人が来県。しかし、ビジネス旅行を対象としていたため、コロナ禍の影響で利用者が大きく落ち込んだ。県への問い合わせ自体も途絶えてしまっていたが、8月9月頃から問い合わせが戻ってきている。
これまでは企業が10人ほどのグループで出張に来るというのが多かったという。1週間滞在し、平日は9時-5時で勤務し土日に釣りなどアクティビティを満喫。農家を手伝った企業もあったといい、ニーズに応じてオーダーメイドで対応しているのが特徴だ。CSRも同時に行いたいとの要望もあり、CSRのアクティビティも紹介している。当初はIT系企業が多かったが、昨年ごろからは銀行やシンクタンクなど、さまざまな業種が利用するようになり、「若い人だけでなく、役員などの参加も増えて幅広い層にワーケーションが浸透している」ことを実感しているという。
和歌山県ではワーケーションを「価値創造ツール」と捉え、訪問者に「非日常での活動を通したイノベーション創出の機会」を提供できるように取り組んでいる。「体験を通して一人ひとりが自分自身と向き合って新たな自分と出会う場になれば」としている。また受け入れる和歌山県側も、訪問者との交流を通じて様々な知見や視点をもらうことで地域課題の解決や新たなビジネスが生まれることを期待。和歌山県では情報発信に注力しており、ワーケーション専用のホームページを作って和歌山県ならではのワーケーション情報を紹介している。

宿泊者同士の交流で新しいアイデアが思いつくことも(ゲストリビングMu南紀白浜)

KabuK Style~ワーケーションの未来

HafH会員はフリーランスの利用者が多いように思われているが、この半年で会社員が8%増え、全体の42%を占めるようになった。会員の増加に伴い、ゲストハウスなどだけでなく大型ホテルとも提携を進めている。
ワーケーションバブルとも言えるほどの状況で環境省がワーケーションを推進しているが、「コロナ禍の対処療法でなく今後も広がる」と感じているという。そもそもリモートワークは世界的なムーブメント。日本ではリモートワークができるのは労働者全体の20%だが、海外は50%以上という。「世界90億人のうち、60億人の労働人口の半分がリモートワークをし、そのうちの三分の一が『デジタルノマド』と言われるような『旅をしながらリモートワークをする人になる』」と予測する識者もいるそうだ。世界中の人が旅をしながら働けるようになったときに、日本の「新しいインバウンドプロフィール」というものがまったく出来ていないことを同社の代表は痛感。日本のインバウンドは海外のワーケーション層を取り込むことが課題となっている。
実際にデジタルノマドの人たちがバンコクやチェンマイ、バリにヨーロッパから大勢来ているが、彼らに話を聞くと「日本は行ってみたいけど…」というところで止まっているという。「じゃあなんで行かないの?」と聞くと「日本は観光するところでしょ?」と返答。彼らは「観光するところ」と「働くところ」は別だと思っていて、彼らにとって日本は観光としては素敵なところだけれど、expensiveでbusyだと思い込んでいるようだ。しかし、日本の地方はどこにも、expensiveもbusyもない。「閉店間際のスーパーで寿司が3ドルで10貫買えるよ」と言うと「今すぐ行くよ」。「彼らは日本の地方の魅力にまだ気が付いていない」と指摘する。
インバウンド観光客が東京・大阪・京都の魅力が分かった後、観光ではなく、地方に1週間滞在して仕事をしてみるというマーケットにポテンシャルがあるのに、日本が対応できていないのが実情だ。
「その新しい市場に対応することが、目指したい5年後10年後のグローバルビジネスのスコープ」と同社。
働き方改革が未来都市会議で一丁目一番地のテーマになっているなか、ワーケーションを推進する政府と交渉し、「観光だけではなく、日本のより良い未来にHafHが貢献したい」と力を込める。

ゲストリビングMu南紀白浜~不動産業界からの参入

白良浜の目の前にある築40年を超えるリゾートマンションをリノベーションして2019年3月にグランドオープンした「ゲストリビングMu南紀白浜」。Muの名前の由来は「無」。元々、不動産会社を母体としたこともあり、リノベーション費用や管理費を抑えることに成功した。不動産会社のノウハウから今のカタチの営業スタイルが最適と判断し、宿泊に特化してシンプルに泊まれる寝床を提供。フレキシブルな空間と交流、そして何気ないホスピタリティで自由な旅人がロングステイをして南紀を堪能でき、本当にリラックスできる宿を目指している。コンドミニアムとドミトリーの2つのタイプの客室を用意し、1人から数名のグループまで様々な人が利用。充実したシェアスペースはワークスペースとして利用できる。泉質の良い温泉も好評で、「ワーケーションに来る人は面白い人が多く、人との交流も楽しい」と話す。

左:オーシャンビューのコンドミニアムルーム / 右:キッチン付きの共用ダイニング(ゲストリビングMu南紀白浜)

続々と提携施設が増加。和歌山ではSHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMORE RESIDENCEもHafHの提携施設に

和歌山の人気宿泊施設「SHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMORE」が、ワーケーションに対応した長期滞在型の施設SEAMORE RESIDENCEを2019年の7月にオープンした。SEAMORE RESIDENCEの滞在者は、隣接するSHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMOREのパソコン、プリンター、WiFiを完備したビジネスルームを利用することができる。ゆったりとした環境で、効率よく作業できる。太平洋に面した解放感のある「インフィニティ足湯」も宿泊者以外でも無料で利用可能。人気のベーカリー&カフェ「TETTI BAKERY&CAFE」があるのも嬉しい。

左上:広々とした共有リビングスペース / 右上:室内もスタイリッシュ (上段:SEAMORE RESIDENCE)/ 左下:海を臨むビジネスルーム / 右下:パソコン、プリンターなどが揃う(下段:SHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMORE)

アフターコロナで注目される新しい働き方、ライフスタイルを紹介した。HafHの提携施設は今後も増えていくということで成長が楽しみだ。憧れのライフスタイルである「旅をしながら住む、働く」を、もう叶えている人もいる。それに伴い交通事業者が新たな需要のためにサービスを提供し、自治体や宿泊施設も受け入れに積極的に働いている。今後さらに「旅をしながら住む、働く」というライフスタイルを、誰もが簡単に、自由に選択できる未来になればと思う。
話は変わるが、人間の脳は移動を快楽と捉えることが最新の研究で分かったそうだ。移動距離が大きく、移動先が多様で新規性があるほど幸福度が高くなるといい、旅が好きな人なら感覚的に理解してもらえるのではないだろうか。旅行もワーケーションも多拠点居住もMICEもすべて、移動を伴うところは共通項。新型コロナウイルスの感染拡大で移動が制限されたとき、人々は強いストレスを感じたが、同時に旅や移動の素晴らしさを再認識したと思う。感染拡大防止に気を配りながら、新しい旅のかたちやライフスタイルを模索し、幸福を感じる移動を楽しんでいきたい。

この記事を書いた人

 

橋本 真由美(はしもと まゆみ)
1982年生まれ。甲南女子大学卒業後、観光メディアの企画、編集記者に。現在は韓国・釜山と日本・大阪を結ぶ定期国際フェリー「パンスタードリーム号」の船内誌「パンスターファン」編集長を務める。

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