
大阪観光局は5月20日、アットビジネスセンター心斎橋(大阪市中央区)で「IGLTA世界総会2024年誘致のための準備会議」を開催した。IGLTAとは、LGBTQツーリズム普及のために1983年に創立された本部をアメリカに置く旅行業団体。大阪観光局ではIGLTAが毎年開催する世界総会の2024年度の開催地として大阪が立候補する準備を進めている。
大阪観光局の溝畑宏理事長は「LGBTQ受入れは世界ではスタンダードであり、万博の開催理念『いのち輝く未来社会のデザイン』やSDGsの重要な目標でもある。インバウンドが再開する2022年は重要な年。世界の中で選ばれる都市にならなければいけない」とLGBTQツーリズムの重要性を話し「IGLTA世界総会の招致が成功しても失敗してもLGBTQツーリズムの受け入れはしっかり整備していかないといけない。これは長期的ビジョン。中期的ビジョンとしては日本国内におけるLGBTQの受け入れをオールジャパンで進めていく意味で非常に価値がある。全ての都市が輪になり2024年がLGBTQ元年と言えるように、みなさんと一緒に頑張りたい。」と参加者らに訴えた。
会議には地元大阪の行政担当者や2025年日本国際博覧会協会、関西経済連合会、大阪商工会議所のほか、日本政府観光局(JNTO)、北海道観光振興機構、東京観光財団、福岡市、沖縄観光コンベンションビューローも参加。IGLTA世界総会がどういったものなのか、LGBTQツーリズムについてなど理解を深めた。

同観光局のLGBTQアドバイザーである小泉伸太郎氏(株式会社アウト・ジャパン取締役会長)によるLGBTQツーリズムの基本的な知識や世界の事例
LGBTQとは…
LGBTQは(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの4つのイニシャルを並べた頭字語で性的マイノリティの総称のひとつ。日本では「セクシャルマイノリティ」「性的少数者」などの総称も通用しているが国際社会では価値中立的な言い方として「LGBT」や「LGBTQ」が定着している。Qはクエスチョニング、クィアの頭文字。クエスチョニング自身のジェンダーやセクシュアリティが定まっていない、揺れ動いている、また決めたくない人。クィアはL,G,B,Tという言い方に当てはまらない、ジェンダーやセクシュアリティが非典型な人全般。
そしてLGBTQツーリズムは、LGBTQ旅行者をマーケティング対象にした観光施策。国際旅行におけるゲイ・レズビアンの比率は約10%で7、000万人、世界のLGBTQツーリズムの市場規模は2,020億ドル(約25兆円)と言われている(Out Now Consulting,2014)。
LGBTQ旅行者の特徴としては①SNSへの投稿が頻繁②ロイヤリティが高く、気に入った場所に何度も行く傾向が強い③サービスへの厳しい目をもつが、一度獲得出来ればリピーターになりえる。LGBTQ旅行者が納得するサービスを提供できればどの旅行者にも喜んでもらえる――といった点がある。LGBTQインバウンドはその消費額の高さから富裕層の一部として認識されている。
LGBTQツーリズムの世界の事例、トレンド
LGBTQ旅行者は、安全に過ごせるフレンドリーな旅行先を求めている。中でも人気の高い旅行先は、パレードのようなプライドイベントが開催されており、ゲイバーやゲイクラブが充実しているニューヨークやトロント、シドニーといった大都市や、ゲイフレンドリーなバンコクやシッチェス、プエルトバラダなどのリゾート地。また同性婚が認められたことによりLGBTQフレンドリーなイメージが広がり政府観光局の後押しも受けてLGBTQ旅行者が大幅に増えた国(スペイン、南アフリカ、アルゼンチン、ブラジルなど)もある。
世界のLGBTQツーリズムの事例としては、世界の都市では数百万人が集まるプライドイベントが開催されている。プライドの時期に合わせ様々なパーティーも催される。
アスペン、ウィスラーなど海外の大型スキーリゾートはLGBTQスキーウィーク、月間などを設け数万人規模のイベントを開催。ゲイクルーズ、レズビアンクルーズも人気。同性婚が合法の国が増えているため、ウェディングやハネムーン旅行の需要も高まっている。さらに子供を持つ同性婚をしたカップルの家族旅行も増加している。またトランスジェンダー旅行者はパスポートと今の容姿が違う場合があり、公共のトイレやお風呂の問題もあり、誰でも利用できるトイレを設置したり、見た目で「彼」「彼女」と呼ばないなどの配慮が必要になる。

大阪観光局のLGBTQツーリズムの取り組み
大阪観光局ではLGBTQツーリズム推進を重要施策のひとつとして2019年から取り組んでいる。LGBTQツーリズムの推進は、同観光局のコンセプトのひとつ「多様性あふれる街」に合致することや、LGBTQ旅行者の観光消費額が大きいこと、欧米豪の観光客誘致に繋がる。大阪のポテンシャルとしては、ゲイバーが集積していることや文化・芸術周遊のハブであること、大阪人の他者を受け入れる気質やハイセンスなホテルや施設があること。
これまでの具体的な取り組みとしては、大阪観光局は2018年にIGLTAメンバーに加入。2019年に日本の観光DMOで初となるLGBTQウェブサイト「VISIT GAY OSAKA」を開設。2021年2月には「LGBTQツーリズムカンファレンス in OSAKA」を開催。同年6月にはプライド月間キャンペーン(6月は世界各地でLGBTQ啓発活動が行われるプライド月間)として企業とコラボ商品を販売している。 また、観光関連事業者を対象にLGBTQツーリストの誘客支援としてワークショップの開催やメニュー、サービスの開発支援なども行っており、これまで参画事業者(宿泊施設、飲食、クルーズ等)20社がIGLTAに加盟。有料のサポートプランとしてはLGBTQの基礎知識を学ぶセミナー実施と覆面調査による効果測定、「Visit Gay Osaka」への掲載、LGBTQオンライン予約システムでの優先的総客補助をセットで40万円(税別)で販売している。
派手な衣装やメイクで女装するドラァグクィーンと既存の観光コンテンツを掛け合わせた「Drag Queensとうどん作り体験」や「Drag Queens変身体験」といったユニークな商品造成も行っている。
今後の取り組みとしては、7月に「LGBT Forum de Turismo」に日本の観光局として初出展。10月に3年ぶりにリアル開催される「レインボーフェスタ」出展、秋の大阪城天守閣90周年イベントにもLGBTQの施策を絡める予定。またIGLTA Global Convention ミラノ大会に出席、Voyage(IGLTA寄付イベント)で日本の観光局初のメインスポンサーとなるなど積極的に活動を展開する。
IGLTA世界総会が大阪で開催されると…
IGLTA世界総会は世界中のIGLTA会員(航空会社、観光局、ホテル、メディア、旅行会社等)が集まりネットワーキングイベントやセミナー、BtoB商談会が行われる、年に一度の最大の会合でアメリカとそれ以外の国で交互に開催される。
2019年のニューヨーク大会の場合、参加者は49カ国700人、参加メディアは10カ国65人。国際メディアで200以上の記事が掲載され、世界に発信された。
開催期間のセッション、パーティーだけでなく、現地での運営計画を確認するため開催前からIGLTAのスタッフなど世界中から関係者が来日。LGBTQ旅行会社やメディアなどが参加する日本各地へのプレファムトリップ、ファムトリップも開催される。 総会開催地が大阪に決定すればアジア初。総会開催地は多様性に富み、観光デスティネーションとして魅力的であると認識され、そのブランディングを万博に繋げられる。
大阪を訪れたLGBTQ旅行者は日本全国を旅するようになる。LGBTQフレンドリーな国としてオールジャパンで受け入れ態勢を整える必要がある。(JAPAN MICE NAVI 編集部)
大阪観光局LGBTQツーリズム:LGBTQツーリズム | 事業概要 | 大阪観光局公式サイト (osaka-info.jp)