
公益財団法人大阪観光局(理事長:溝畑 宏)は、9月27日、W大阪(大阪市中央区南船場)で心斎橋エリアの観光事業者を対象にLGBTQツーリズムセミナーを開催した。大阪観光局では2025年の大阪・関西万博を見据え、またインバウンド回復期に向けた積極的な観光戦略の一つとして、LGBTQ ツーリズムを促進している。今回のセミナーは心斎橋エリアの活性化を目指している W 大阪×大丸心斎橋店×心斎橋 PARCO の合同プロジェクトのひとつとして開催した。講師は大阪観光局でもLGBTQアドバイザーを務める株式会社アウト・ジャパン会長の小泉伸太郎氏が務めた。

Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、出生時に割り当てられた性別と性自認が異なる人)、Queer(クイア、規範的ではないとされる性のあり方を包括する言葉)、Questioning(クエスチョニング、自分の性について特定の枠に属さない人、わからない人)の頭文字をとったもので、多様な性を表す言葉だ。また性は性別、性的指向、性自認、性表現の多様な組み合わせであると考えられる。①性別(生殖機能や性染色体など身体的、生物学的な性別)②性的指向(どの性別の人に性的に惹かれるか)③性自認(ジェンダーをどう認識しているか)④性表現(服装や髪型、仕草、言葉遣いなど外見上のジェンダー)。
小泉氏は「LGBTQは日本の人口の8.2%というデータもあり、AB型や左利きの方たちの人口とさほど変わらない割合。家族や友人、身近な人の中にもいると思います。そもそも性は多様。同性愛は動物界でも当たり前に存在するもの」と説明。またいじめや差別を受けがちであること、結婚できないことなど、様々な面で困難に直面し苦しんでいます。同性愛者だと死刑を科せられる国もある。人権を保障するのは社会側の問題。同性愛嫌悪や異性愛規範、性別二元論という思い込みをやめ、LGBTQへの理解を深めてほしい」と話した。また日本の現状として法律の整備が遅れていることを説明。性同一障害特例法によって戸籍上の性別を変更できるが未婚であること、未成年の子がいないこと、断種手術を受けることなど、厳しい要件がある。子がいないことを要件とするのは世界で日本だけだという。また同性カップルの法的保障がないことやLGBTQ差別禁止法がないのはG7で日本だけ。LGBTQに関する法整備状況はOECD35カ国中ワースト2位。地方自治体で同性パートナーシップ証明制度が広がっているが証明書を発行するだけで法的効力はゼロに等しいなど、課題を挙げた。
LGBTQツーリズムとは
LGBTQツーリズムは、LGBTQ旅行者をマーケティング対象にした観光施策。国際旅行におけるゲイ・レズビアンの比率は約10%で7千万人(Travel University,2000)、世界のLGBTQツーリズムの市場規模は2,180億ドル(約28兆円)(Out Now Consulting,2018)と言われているそうだ。
LGBTQ旅行者はLGBTQ旅行者が安全に過ごせる旅先を求めている。①パレードのようなプライドイベントの開催地、ゲイバーやゲイクラブが充実している都市(ニューヨーク、トロント、シドニーなど)②ゲイフレンドリーなリゾート地(バンコク、シッチェス、プエルトバラタ)が人気だという。同性婚が認められたことでLGBTQフレンドリーなイメージが広がり政府観光局の後押しも受けLGBTQ旅行者が大幅に増えた国(スペイン、南アフリカ、アルゼンチン、ブラジルなど)もあるそうだ。
世界の観光局ではLGBTQ旅行者に来てもらおうと特設サイトを開設し、LGBTQ FAM Tripを行いマーケットに働きかけている。
大阪観光局の取り組み
大阪観光局も積極的にLGBTQ旅行者の誘客促進を展開。2018年10月にInternational LGBTQ+ Travel Association (IGLTA)に加盟。IGLTAはLGBTQツーリズム普及のために1983年に創立された本部をアメリカに置く旅行業団体。2024年のIGLTA世界総会の誘致活動も実施している。決定した場合アジア初の快挙となる。また観光局員に対してのLGBTQ研修やLGBTQ FAM Tripを開催するなど、LGBTQ旅行者受入れの基盤作りに積極的な活動を行っている。
日本初の観光局が主導で制作した、大阪を訪れるLGBTQ旅行者の為の総合情報英語サイト「VISIT GAY OSAKA」(https://visitgayosaka.com/)も開設している。
また、ドラァグクイーンを活用した新たな旅行商品を造成。「ドラァグクイーンと一緒にゲイバー体験」「ドラァグクイーンと行く大阪ナイトクルーズ」「ドラァグクイーン変身体験」「ドラァグクイーンをひとり占め!プライベートパーティー」といった商品。既存の観光コンテンツに、ゲイカルチャーの象徴であるドラァグクイーンを掛け合わせることで、エンタメ度が高く、高価格帯の旅行商品を造成したという。海外からも「なかなか他にないツアーだ」と評判も高いそうだ。
LGBTQ旅行者を接客する際に
LGBTQ旅行者の特徴としては、SNS投稿が多いことが挙げられる。世界中の仲間に発信しており、インフルエンサー的な役割をもつ。また世界中を旅行していて目が肥えており、サービスに対して厳しい目を持つ。そして、ロイヤリティが高く気に入った場所には繰り返し訪れる。一つの例としては、あるLGBTQ旅行者はサイクリストで飛行機に自身の折り畳み自転車を積み、サイクリング中も緊急時などすぐ対応できるように車を伴走させてサイクリングを楽しむ。またグルメで食事にもお金をかける。しかしホテルは高級ホテルを希望しない。このように自分のこだわりのある部分にお金をかけて楽しむ旅行を希望するLGBTQ旅行者もいる。
また、実際にLGBTQ旅行者を接客する時には何に気を付けるべきか。ポイントとしては、①LGBTQを見た目で判断することはできない。不快な思いをさせないよう、普段の言動から気を付ける必要がある。②恋人といえば異性という先入観を捨てる。ダブルルームを利用する同性カップルも当然いる。ダブルルームに無条件に男性物と女性物の備品をひとつずつ置く対応はやめよう。また多目的トイレの表示も「ALL GENDER RESTROOM」「ANYBODY」などに変更を。
LGBTQの受け入れは国際社会のスタンダード。観光施設や宿泊施設は理解を深め接客を学ぶ必要がある。今回参加した人の中からも様々な質問が寄せられた。「施設のレディースファッション、メンズファッション、といった表現は大丈夫か」という質問に対し、小泉氏は「メンズファッション、レディースファッションの表現については今のところ問題ないと思うが、ジェンダーフリーなファッションを集めた売り場を設けると良いのでは」と回答。「LGBTQフレンドリーな施設と名乗るには何をすればいいか」の質問には、「LGBTQフレンドリーな施設であるとPRする際に、実態が伴っていないと逆に悪い噂になってしまう」と話し、セミナーなどを受け、モニターに宿泊してもらい意見交換会などをすることを勧めた。大阪観光局でもLGBTQフレンドリーな施設を増やしていくため、LGBTQの基礎知識を学び、LGBTQ旅行者を適切に迎える態勢を整えるための総合サポートプラン「LGBTQフレンドリー推進施策」がある。基本プラン(40万円・税別)で、LGBTQ セミナー実施や覆面調査による効果測定、LGBTQ情報サイト「Visit Gay Osaka」への掲載、LGBTQオンライン予約システムで優先的に表示し送客補助などが受けられる。(JAPAN MICE NAVI編集部)
大阪観光局LGBTQフレンドリー推進施策ページ
https://octb.osaka-info.jp/sdgs/lgbt_friendly.html