元新聞記者で、この春、佐井村に移住した加藤彩美といいます。佐井村で初めて開かれた『美しい村世界女性サミット』に参加してみました。

青森県佐井村で「日本で最も美しい村世界女性サミット2019in佐井村」が8月31日~9月1日、開かれました。NPO法人「日本で最も美しい村」連合に加盟する東北地方の6町村地域(山形県大蔵村、同飯豊町、青森県田子町、同弘前市岩木地区、同西目屋村、同佐井村)の女性13人らが集結。自然豊かな村内の視察や、絶景を誇る願掛公園を舞台にしたゲストによるトークとワークショップなどを通し、「女性が描く美しい村の姿」について考えを深めました。
挑戦する佐井村
マサカリのような形をしていることから「マサカリ半島」ともいわれる下北半島の西部に位置する佐井村は、人口約2000人の小さな村です。津軽海峡に面し豊富な海産物に恵まれており、漁業が基幹産業。また、国指定文化財(天然記念物)でもある仏ケ浦には年間十数万人もの観光客が訪れています。全国でも珍しい漁村歌舞伎を百数十年に渡って継承しているほか、江戸時代に北前船の海運で栄えた歴史からか京都祇園祭の様式を色濃く残す山車行事は300年以上の歴史があります。
佐井村は2016年10月にNPO法人「日本で最も美しい村」連合に加盟。加盟後は、産官民で視察やワークショップを重ね、2030年に向けて「日本で最も小さくかわいい漁村」を目指す―とする村づくりビジョンと、ビジョン実現のために28のアクションプランを策定しました。現在は、村民有志でプロジェクトチームをつくり、佐井産クラフトビールをつくることを目指したホップ栽培など新たな挑戦を始めています。「美しい村女性サミットを開催する」もアクションプランの一つです。



海の幸を堪能
8月31日昼ごろ、サミット参加者たちは、陸路や青森市からの航路を使って、佐井村の津軽海峡文化館アルサスに集合しました。アルサスでは昼食として、村自慢のキタムラサキウニや、地元で「大魚(オヨ)」と呼ばれるイシナギなどを使った色鮮やかな海鮮丼、シャキシャキした歯触りとつるんとしたのど越しが楽しめるモズクなどが提供されました。海鮮が食べられない参加者には、かつ丼が出される配慮も見受けられました。

インスタ映えする仏ケ浦
女性サミットの視察第1弾は、観光名所としても人気の仏ケ浦。アルサス海側の船着き場で観光船に乗りこみ、30分ほどの船旅を楽しみます。船前方の席では、仏ケ浦を描いた座席シートがお出迎え。船後方の席では航行中、水しぶきを浴び、歓声を上げる参加者の姿もありました。
緑白色の巨大な奇岩群がそびえ立つ仏ケ浦に到着後は、ガイドの案内で散策。約1500万年前の海底火山の噴火や、その後隆起した地層が長い年月をかけて風雨や波で削られたことで形成されたという神秘的な岩々はそれぞれ「如来の首」や「一ツ仏」などと名付けられています。参加者たちは自然の造形美に圧倒されつつ、幻想的な風景をしきりに写真に収めていました。

夢を育むホップ畑
仏ケ浦から戻り、次に向かったのは佐井村中道地区の海沿いにあるホップ畑。佐井産クラフトビールをつくることを目指したホップ栽培は今年始まったばかり。プロジェクトチームのメンバーの一人が活動を紹介してくださりました。草や石の多い休耕地を仲間が力を合わせて開墾したことや、指導を受けている田子町の農家さんから「1年目で花が咲くのは珍しい」と聞いていた中で、花が咲きホップが収穫できたことなど、ワクワクするエピソードを教えていただきました。説明を聞きながら、参加者一人一人が実際にホップを手に取り、爽やかな匂いを確かめました。

地元漁師が伝授「ウニの殻むき体験」
ホップ畑視察後は、佐井村漁協の荷捌き施設へ移動。参加者たちは、地元のベテラン漁師2人らから手ほどきを受け、ウニの殻むきに挑戦しました。殻を割ったウニからスプーンで身を取りだし、ピンセットでウロと呼ばれる部分を取り除くといった慣れない細かな作業に手間取りながらも、頑張って、むき身にしました。早速、先ほどまで生きていたウニを頬張ると「あま~い」「こんなに大変なら高いのも納得!」「磯の匂いがするこの場所で食べるから格別~」「漁師さんがカッコイイ!」などと話し、自然に根差した生業や、生業を支える地元の人に触れられる体験に満足した様子でした。

夕日を望む野外ディナー
サミット1日目の最後を飾ったのは、願掛岩を見下ろす高台にある「願掛公園」を舞台にした交流会です。
ゲストのSATSUKI氏は、イブニングドレス姿で登場。欧州系エアラインの客室乗務員で、国際ボディランゲージ協会認定講師としても活躍されている経験から、国際社会に通用するボディランゲージやドレスコードについてレクチャーしてくださりました。
また、参加者たちは、海に夕日が沈んでいく様子を眺めながら、青森市の料理店「リンチェ」のシェフが手掛けたイタリアンを堪能、イタリアのビールやワインなどお酒もゆったり味わいました。会場にはジャズバンドの生演奏が流れ、心地よい雰囲気の中、交流を深めました。

朝活 願掛岩を散策
夜は願掛公園に建つ、総ヒバ造りのログハウス「ケビンハウス」に宿泊しました。同じ棟に宿泊した参加者と夜更けまで話が尽きず、楽しい時間を過ごしました。
筆者は翌朝少し早く起きて散歩へ。巨大な二つの岩が、男女が寄り添う姿のように見え、古くから縁結びの信仰を集めてきたという願掛け岩。「女願掛」と呼ばれる岩の遊歩道を歩いてみました。木々の中を少し進むと視界が開け、津軽海峡が間近に。コバルトブルーの美しい海、岩に波が打ち寄せる音が「非日常」を感じさせてくれました。


選ぶ楽しさ!地元のパン
2日目の朝食は、地元の山口製菓のパンがずらり。下北では定番の「あんバター」をはじめ、さまざまな菓子パンや総菜パンから好きなものを選び、いただきました。

青空ワークショップ
2日目は、青空が広がった願掛公園で、ゲストの料理作家ナンシー・シングルトン・八須氏のトークと、参加者によるワークショップ、サミット宣言を行いました。
ワークショップでは、NPO法人「日本で最も美しい村」連合の波佐本由香・資格委員会委員がファシリテーターを務め、美しい村づくりについて①女性がどのように関わっていくか②ネットワークをどう築き継続するか③食はどのような役割を持つか―などについて参加者が意見交換しました。
風に揺れる木々の下、リラックスした雰囲気の中で話し合うことで、次々とアイデアが出てくる感覚があり、時間が足りなくなるほど活発に意見交換を行うことができました。天候や参加者の体調を配慮する必要がありますが、会議室ではなく野外でのワークショップは、新しい一つの手法だと感じました。


この記事を書いた人

加藤彩美/1986年、福島県会津若松市出身。弘前大学教育学部卒。福島大学大学院地域政策科学研究科修了。東奥日報社記者を経て、2019年5月、漁師である夫の住む佐井村に移住。
今回訪れたところ
青森県佐井村