
人々がバーチャル空間とリアルの世界を行き来しながら暮らす――そんな日常が映画や小説の世界ではなくVR/AR技術の発展やIoT、5G高速回線の実現により、現実的になってきました。フェイスブックは仮想現実(VR)端末向けのSNSの「ホライズン」をスタートしています。
MICEや観光はリアルの世界の産業が中心ですが、AR技術を利用してスマホをかざすと観光案内が見られるなど現実社会との融合で活用が進んでいます。ではVRはどうでしょうか。最先端のバーチャル空間で実施された「バーチャルマーケット4」で、VRはショッピングや展示会の新しい選択肢を示しました。
MICEのEはEVENT(イベント)やEXHIBITION(展示会)の意味です。「バーチャルマーケット4」のようなイベントは、バーチャル空間で行われるMICE(バーチャルイベント、バーチャル展示会)と言えます。
同様に、バーチャル空間で観光地の体験などができるイベントや物産展などを開催すれば、VRはリアル世界のMICEを推進する新たなツールとして期待されます。地域やベニュー(会場)の魅力を紹介や提案するだけにとどまりません。
今のバーチャル空間は、現実・仮想現実空間を行き来しながら生きていく社会「パラリアルワールド(並行現実世界)」と呼ばれる段階に進んでいます。バーチャルの世界では自分の分身としてアバターを動かしながら買い物や体験を楽しむことができますので、観光資源や産品をバーチャル世界の商品や体験として販売することもできるでしょう。
株式会社HIKKY(本社:東京都渋谷区)は、2020年4月29日~5月10日の 12日間、バーチャルリアリティ(VR)空間上で行う世界最大級のイベントとなる第4回「バーチャルマーケット」を開催しました。バーチャル空間上にある36の会場(ワールド)で、出展者と来場者が、さまざまな3Dアイテムや、リアルの洋服、PCなどを売り買いできるイベントです。また乗り物に乗ったり、映像を見たり、街を散策して来場者間でのコミュニケーションを楽しむことができました。
出展企業43社、出展サークル1400ブースが参加。前回の71万人を上回る来場者が参加しました。VRゴーグルやPCを通じて体験できる「バーチャルマーケット」は「パラリアルワールド(並行現実世界)」を一足早く体験できる空間でした。
新型コロナウイルス感染拡大防止による外出自粛要請でオンラインやVR空間に今回は特に注目が集まったといえます。MICE業界でも新しい様式を求められることになるでしょう。今回は「バーチャルマーケット」を通してこれからのMICE振興について考えたいと思います。

同イベントは2018年8月26日に第1回を開催。出展企業無し出展サークル77ブースで数千人が来場。第2回 は2019年3月8日~10日開催、出展企業20社、出展サークル429ブースで延べ来場者数が約12万5千人。第3回は2019年9月21日~28日開催で出展企業30社、出展サークル600ブース、延べ来場者数約71万人。着実に規模を大きくしてきました。
第4回となる今回は特に新型コロナウイルスの影響でオンラインやVR空間の強みが活かされました。インターネットがあれば誰でも参加することができ、12日間24時間休まず開催されていることから、日本はもとより世界中から来場者が集まりました。(※パソコンのスペックやネット環境の影響を受けます。またパソコンやゲームなどの知識量により受ける印象は異なります。)
一般来場者からは、「外で走り回ったような解放感がある」「このご時世でも、バーチャル上なら何人で集まっても安心安全に楽しめる」といった声が寄せられたといいます。
出展者からも「バーチャル世界では、大きく新型コロナウイルスの影響を受けずに、自宅や事務所などから接客ができ、ものが売れている」「国内はもちろんのこと、海外からも反響が多く、新たな市場としての可能性を感じている」との意見があったとのこと。
「バーチャルマーケット4」の会場は、「企業出展会場」と「一般クリエイター出展会場」の2つに大きく分けられます。
個人(サークル)出展ブース
個人(サークル)の出展者は、企業出展会場である「パラリアルトーキョー」以外の全35会場のいたる場所に、それぞれの趣味や想いを反映した個性的なブースを構えます。出展者は、「アバター」(バーチャル空間上の自分に当たる3Dモデル)やアバターに個性を出す為の「アクセサリー」、「衣装」、バーチャル空間上の「家」や「部屋」などの3Dモデルのほか、出展者が自作した「同人誌」や「イラスト」「音楽」などを出品。3Dアバターや3Dモデルは会場に展示され、自由に試着、鑑賞、購入することができます。レアグッズは非常に高い関心を集めました。まさにバーチャルでクールジャパンを体験できるイベントです。
人気出展企業によるバーチャルならではの特別体験を提供
車業界初出展のアウディジャパンは、日本未発売の電気自動車e-tronの試乗体験を実施。ファッション業界から出展中の、三越伊勢丹ホールディングスやWEGOでは、販売員が自宅や事務所などからバーチャルで接客を行いました。「TOHO シネマズ六本木ヒルズ」風ブースでは2020年11月6日公開の映画『ブラック・ウィドウ』の予告編をバーチャル映画館で上映したほか、フォトブースキャンペーンも実施。セブン-イレブンでは、実在する東京千代田二番町店を再現した店内で、スクウェア・エニックスの人気ゲーム「ニーア オートマタ」のキャラクターの3Dアバターなどを販売しました。

アナログな筆者でも楽しめた最新のバーチャル世界
筆者は普段TwitterやInstagramなどのSNSやインターネット通販を利用する程度。今回バーチャルマーケットに初めて参加させてもらったので、まずはVRChatやSteamといったソフトをインストールするところからスタートです。VRゴーグルなど特別な機器は必要なく(VRゴーグルがあればより没入感を楽しめると思います)、スペックにもよりますがノートPCでも楽しむことができます。慣れない作業ではありましたがガイダンスのおかげでなんとかバーチャルマーケットに参加することができました。入ってからはパラトーキョーの世界を中心に散策。東京都のランドマークである「東京タワー」や「歌舞伎座」、「東京スカイツリー」、「東京駅舎」、「秋葉原ラジオ会館」などを模した様々な建造物が配置されています。これらはすべて許可を得た上でデザインを行っているとのこと。バーチャル空間によく知る建物がある不思議な感覚はまさに、パラレルワールドのトーキョーに迷い込んだよう。パラトーキョーでは建物内に入って遊んだりすることも可能で、時間を忘れてパラトーキョーの街を観光していました。企業ブースでは最新技術を利用したPRを体験できます。スマホやタブレットで気軽に参加できるともっと利用する人が広がりそうです。
バーチャルMICE誘致イベントで「直接」観光地体験や相談会開催の可能性を探る
観光地や自治体が出展者となり、MICE誘致のPRイベントをバーチャルで開催するのはどうでしょうか。各ブースで、観光地やMICE施設のイメージ映像の上映やアクティビティ(例えば乗馬や気球に乗る)の体験などをしてもらいます。従来のリアル誘致イベントのように説明やパンフレット配布ではなくバーチャル体験を通して魅力を訴えられるのはインパクトに残るはずです。また従来のリアル誘致イベントのように物産展もオンラインショッピングという形であわせて開催できます。オンライン上でMICE誘致担当者と直接やりとりするバーチャル相談会を開催することもできます。
世界中の人が簡単に参加可能であるという点は、MICE業界にとってもちろん大きな利点です。それまで検討に入っていなかった国や地域の魅力に気が付いてもらえるチャンスが増えます。
新型コロナウイルスが収束したとしても、新たな感染症が流行しないとも限りません。感染症対策としては安全な上、様々な体験が可能になった魅力的なバーチャルの世界。しかし、我々のMICEや観光といった分野は、バーチャルの世界だけで完結するわけではなくリアルの世界で体験してこそ醍醐味のわかるものもまだまだあります。人間がふだん使用する五感とよばれる、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。バーチャルの世界では視覚、聴覚、触覚(一部)は体験できますが、まだ味覚と嗅覚を味わうことができません。五感以外にも、感覚の種類は未発見のものを含めてほかにもあると言われています。やはりMICEや観光においてはリアルの世界で現地に足を運んでもらい、感覚のすべてを使ってその土地や人との交流を体感してもらいたいと願います。もちろん、これからのMICEの開催においては感染症対策が必要不可欠であることは言うまでもありません。現地へ足を運ぶきっかけやその土地のファンをつくるリアルな世界への架け橋として、これから発展を続けるであろう頼もしいバーチャルの世界に力を貸してもらえればと思います。
次回バーチャルマーケット5(VIRTUAL MARKET 5)の開催も決定しています。テーマは「World Beyond」。webサイトや出展マニュアル、会場も英語に対応するそうです。
「バーチャルマーケット4」開催概要
名称 | バーチャルマーケット4(VIRTUAL MARKET 4) |
主催 | VR法人HIKKY |
会期 | 2020年4月29日(水・祝)11:00~5月10日(日)23:00(計12日間) |
会場 | VR会場内の特設ワールド(バーチャル空間)で開催 |
参加方法 | VRChat(HP)https://vrchat.com/ バーチャルキャスト(HP)https://virtualcast.jp/ |
※次回「VIRTUAL MARKET5」は、下記の概要で開催することが決定。
「バーチャルマーケット5」開催概要
名称 | バーチャルマーケット5(VIRTUAL MARKET 5) |
主催 | VR法人HIKKY |
会期 | 2020年12月19日(土)~2021年1月10日(日)(計23日間) |
会場 | 以下、ソーシャルVRサービス内の特設ワールド(バーチャル空間) |
参加方法 | VRChat (HP)https://vrchat.com/ 他(現在調整中) |
この記事を書いた人

橋本 真由美(はしもと まゆみ)
1982年生まれ。甲南女子大学卒業後、観光メディアの企画、編集記者に。現在は韓国・釜山と日本・大阪を結ぶ定期国際フェリー「パンスタードリーム号」の船内誌「パンスターファン」編集長を務める。