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COLUMN ─ 井上盛夫氏 (日本ファインダイニング協会副会長・ソルトグループ代表) インタビュー

JPEN

井上盛夫氏は、ソルトグループとして50を越えるレストランの経営だけでなく、食を中心としたイベントも多数手掛けており「食を通して”世界を日本へ“そして”日本を世界に“喜びと感動を届ける」プロフェッショナルである。活躍の舞台は日本だけでなく、イギリスでも事業を展開、世界で見てきたおもしろいことを実践。また、日本ファインダイニング協会副会長として日本の外食産業・食文化を発展させるネットワークづくりも精力的に行っている。そんな井上氏に、食から見た日本のビジネスイベントとその可能性について、新型コロナ以降の食とビジネスイベントについて語っていただいた。(2021年7月インタビュー実施)


ビジネスイベントの飲食はもっともっと良くなる余地がある。

ビジネスイベントの課題は、そのイベントによってコミュニケーションをどうやってもっとよくしましょうか、というもの。その中で、食とか飲み物とかはとても大事。ただ、今までそういう考え方が日本にはあまりなかったですよね。シーンもなかった。あるとすればホテルの会議室とかでやっていたが、そういうものしかなかった。でももっと自由に面白ことをやっていい。世界ではそれが起きている。

ただ会社単位ではなく、個人レベルでは行われてきています。どこかのお家にケータリングシェフを呼んで飲食を提供する、みたいなことが。特に世界の方とビジネスをされている人というのは、向こうでビジネスをする時に、そういう接待を受けています。そういうものに慣れている方が逆に自分の国でおもてなしするときに、通常のレストランでやるより自分の自宅とか他の面白い場所でやろう、となるケースが多いです。そこにうちのシェフを派遣することもよくあります。

同じビジネスイベントや商談でも、飲食によってその成否は変わるでしょう。絶対そうですよ。人には好みがありますから。美味しいもの、とかいうだけではなくて、相手の方に心地よくなってもらうために何をするか。それができればおのずと結果はついてくると思います。

大事なのは、相手の方のことを徹底的に考えること。

お客さまに心地よくなっていただくためには、好みを熟知していないとダメだし、どこでどういうサプライズを用意するかとか、細やかな心配りが必要です。同じようなことをやっても、慣れてない方には良くても、慣れている方は逆にいやだと感じる場合もあるでしょうし、人によっていろいろ。そこはオートクチュールに考えるべきだと思います。かしこまったやり方の方が良い場合もあれば、逆に肩肘張らない方が良かったりもしますし。だって、展示会からお食事会みたいな流れで考えても「買って買って!」って態度に出てたらいやじゃないですか(笑)。イベント全体でどういう雰囲気を作るのか、そこを徹底的に考えるのがおもてなしです。手土産はどうするの? ご家族は? 本人じゃなくてご家族に喜ばれるものの方が後になってありがたがられたりもしますし。

食を中心にした心配りというのは、レストラン、ファインダイニングをやっていると当たり前のこと。これはビジネスイベントでも大いに役立つと思っています。

企画はいつも必死。特に場所には毎回苦労する。

イベントに対してラクな企画の方程式みたいなものはないですね。毎回毎回手を変え品を変えいろんな作戦を考えますよ。必死です。それは相手の方が毎回違うわけですし、いつも同じ手を使うわけにはいかない。

イベントで一番苦労するのは会場です。普通のレストランではもう驚かれない。行ったことないようなところで、「うわあこんなところで!?」というようなところの方が驚いて喜ばれますよね。ロンドンでやってる会社では、アウトドアでやったり、廃墟になっている倉庫の中で演出をほどこしてやったりとか、どこでもやります。日本は法律など規制もありますが、驚くような場所でのイベントというシーンは遅れていると思いますね。

苦労して見つけてくる場所ですから、場所によっては調理をする空間が限られているところもあります。ですので、ケータリング用の工房を持っています。工房で作って持って行ったり、ある程度の仕込みをお店でしてきて、最後の盛り付けをしたり、場所に応じて臨機応変に対応します。もちろん最低限現場で必要な設備はありますが。

レストランがイベントに関わる意味は、スタッフ。

面白い会場、そこで腕を振るう経験をもったシェフ、美味しい料理が出せる。でもそれだけでは十分じゃないんです。そこに加えて、ソムリエやサービススタッフもレストランから来ます。ここが全然違う、大きなポイントです。料理の美味しさだけでなく、どのタイミングで出すのかとか飲み物がなくなったときに注ぐのかとか次は何をセレクトするのかパッシングはどうとか、レストランで磨いているスタッフの腕の見せ所です。このノウハウはマニュアルとかお店とかではなく、人に帰属するもの。人が大事。なのでイベントで指名されるのは会社ではなく、誰々のレストランとか、個人名で来ることがほとんどです。

美味しい料理を出す、というだけでなくて、食を通じて喜びと感動を届けることができるのが、レストラン、ファインダイニングをやっている者としてビジネスイベントに参画する大きな意味だと思います。

キーワードは「サプライズ」と「遊び方」。

さきほども挙げましたが、サプライズというのは大事な要素です。集合場所だけ連絡してあってイベント会場の場所は明かさず、移動して着いてびっくり、とか。みんなが集まって初めて意味が明らかになるドレスコードとか。部屋を開けたら突然隣が全然別の空間になっているとか。とにかく日頃日常では体験できないことを起こすんです。そしてそこでどういう料理を出すのか。だから驚きと喜びが生まれる。ここをみんなこぞって考えています。だんだんネタはなくなってきますけど(笑)。

ヨーロッパの人たちを見ていて思うのは、みんな遊び方をよく知ってるな、ということ。箱の中(屋内)での遊び方もあるけど、外での遊びかたから何から何まで、いろいろな遊びに慣れている。小さいときから遊び方のシーンを味わっているから、どうやったら楽しめるようになるかを知っている。ビジネスイベントを良くするのも、結局この“遊び方”だと思います。どう見ても廃倉庫だけど、入ってみると中は装飾してあって、そこにイタリアンのシェフと和食のシェフがコラボレーションして一皿一皿出していったりとか、とにかくお客さまが喜ぶようなことを色々考えますよね。来た人が喜ぶかどうか、という視点では遊び方を知っている方がビジネスイベントの成功に絶対近いですよ。

美味しい食を届けるというのは基本です。でも単にそれだけじゃなくて、食を起点にみんなが喜ぶビジネスイベントを考えていく必要があると思います。

これまでの日本はほんと良くも悪くも「勤勉」で、ビジネスイベントに遊びの要素を取り入れることがなかったですよね。でも、これからは変わってくると思いますよ。それは主役が代わってくるから。おじさんに代わって、若い人たちが中心になってくる。そしてスマホやインターネットで世界が繋がっている。仕事する相手も、見えているものも、世界になってきている。そういう兆しは見えてきていると思います。

食のシーンはオンラインを取り入れて進化する。

新型コロナでレストランは今非常に厳しいです。コロナが明けたら、いろいろなことが戻るでしょう。みんなうずうずしてますから。でも、完全に元通りかというとそうではなくて、変化もあると思います。

もともと食というのはオフラインのものだったんですけど、コロナでオンラインという考え方が入ってきた。それに時と共にみんな慣れてきて、今後はオンラインとオフラインが共存していくと思うんですね。今はオンラインで面白い取り組み、仕組みが出てきている。例えば、今レシピが売れている。今までは作って届けるしかなかったのが、例えば今まで届けられなかった地方でもどこかでそのレシピを使ってOEMで作って届けることができる。そんなプラットフォームができてきた。これは定着していくと思いますよ。

コロナの後はオフラインとオンライン両方がうまく使えるようになっていて、以前よりも効率的に食が楽しめる環境になっていくかもわからないですね。


インタビューを終えて

ビジネスはユニークな場所から動く。ユニークな場所でのユニークな体験とは何かを考えていく際、最も重要なピースのひとつが「食」である。では、ビジネスを動かす「食」というのは何か? それは単に食べるもの飲むものを指すのではなく、その場所や時間など周辺をも含めた徹底的な心配りである。その心配りの極意は、相手の方のことを熟知するということであり、「サプライズ」と「遊び心」というキーワードに集約されている。また、新型コロナ後の食の世界の発展の兆しも見えた。新たなビジネスイベントの可能性を開くヒントを至る所に感じられた井上氏のインタビューだった。
JAPAN MICE NAVIではこれからも、ビジネスがもっと活発に動き、ビジネスシーンが盛り上がっていくようなヒントを探し、インタビューなどを通じてお伝えしていきます。(JAPAN MICE NAVI編集部)

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